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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)7770号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因2について

《証拠略》によれば、被告東通スポーツの代表取締役である舘が原告に対し、平成四年四月二〇日本件株式を代金一〇〇〇万円で意思表示の方法により譲渡したことが認められる。

なお、被告東通スポーツは甲一が真正に作成されたことを否認するが、甲五の一、証人舘の証言中には甲一が真正に作成された旨の記載ないし供述部分があり、加えて後記認定のとおり本件株式譲渡の前日である同月一九日にその趣旨はともあれ原告代表者北村守(以下「北村」という。)、舘及びその他被告東通スポーツの取締役らが集合して本件株式を被告東通スポーツが原告に譲渡することについて話合を行つていること、その際舘が原告への本件株式譲渡の提案をしていることに照らすと甲一の作成に不自然な点は窺えない。

また、被告東通スポーツの第七期(平成三年一〇月一日から平成四年五月三一日まで)の貸借対照表及び勘定科目内訳書の有価証券の内訳書には資産として被告播備高原開発の株式四万八〇〇〇株、二四〇〇万円が計上されており(丙四)、本件株式譲渡による保有株式数の減少が記載されていないが(平成四年四月一九日に二万株を一〇〇〇万円で譲渡すれば、同年五月三一日現在の資産として計上されるのは二万八〇〇〇株、一四〇〇万円とならなければならない。)、他方、被告東通スポーツの総勘定元帳には平成四年四月二〇日付で原告へ被告播備高原開発の株式二万株を譲渡した旨の記載があり、その後決算日である同年五月三一日付で右譲渡の訂正として原告から一〇〇〇万円の仮受金があつたという処理をしているのであり、このことはいつたんは二万株の譲渡が存したもののその後何らかの理由によりこれを決算処理上は排除しようとしたことを窺わせるものであり、決算書類上本件株式譲渡が反映されていないからといつて直ちに甲一が真正に作成されたことにつきこれを疑わせるものということはできない。

よつて、甲一は真正に成立したものと認めることができる。

次に、被告播備高原開発が本件株式につき昭和六二年四月一〇日新株発行をし、平成四年三月二九日までは株券を発行していなかつたことは当事者間に争いがなく、被告播備高原開発は株券の発行を不当に遅滞していたものといえるところ、このような場合株主は意思表示のみにより会社に対する関係でも有効に株式を譲渡することができるものというべきであるから、本件株式譲渡は株券交付の方法によらないからといつて無効となることはない。なお、被告ら主張のように本件株式譲渡前に株券が発行されていたとすれば株券の交付を欠いた株式譲渡として無効であるが、この点については後に抗弁1に対する検討と併せて検討する。

3  請求原因3について

《証拠略》によれば、被告播備高原開発の代表取締役である舘は平成四年六月二二日本件株券を発行し、原告が本件株券を所持してることが認められる。

(一)  被告らは甲二の一ないし二〇の作成を否認し、請求原因3の事実を否認するので検討する。これは被告播備高原開発が右株券発行前である同年三月三〇日に本件株式にかかる株券を発行していたから本件株券は無効な株券であること、舘は本件株券発行当時既に被告播備高原開発の代表取締役としての職務を遂行しておらず、同会社の代表印も所持せず、本件株券に押捺されている印影も被告播備高原開発の代表印によるものではないことなどを理由とするものである。前者については抗弁の問題であり、後記二において検討する。

(二)  舘の本件株券の発行については、同人が右株券発行当時被告播備高原開発の代表取締役であつたことは当事者間に争いがなく、仮に内部的な職務分掌上代表者としての権限を失つていたとしても事実上の制限にすぎず舘の代表権に影響を与えるものではないし、既に有効に発行されている株式につき株券を発行することは代表取締役の権限に属することであり、代表取締役が発行した事実が認められる限り登録代表者印の有無にかかわらず有効な株券と認められるべきである(商法二二五条は株券の記載事項として登録代表者印の押捺を要求していない)。そうすると、甲二の一ないし二〇は証人舘により真正に成立したものと認められるのであり、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、本件株券には株式発行の日として昭和六一年一〇月三〇日との記載があり(甲二の一ないし二〇)、これを本件株式発行の日とは異なるものであるが、このことから舘が本件株券を発行した事実に認定を覆すことはできないし、右は誤記であり、この程度の瑕疵では本件株券の効力を失わせるには足りない。

4  請求原因4について

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

ところで、株主が会社に対して名義書換を請求するためには、株券を呈示するか、自己が株主であることを証明する必要があるところ、その旨の主張・立証はないから、請求原因4の主張はそれのみでは失当というべきである。

しかしながら、原告は、本件訴訟手続において被告播備高原開発に対し名義書換を請求し、本件株券(甲二の一ないし二〇)を呈示したことは記録上明らかであり、請求原因4の主張には本件訴訟手続における右名義書換請求の趣旨をも含むものと解するのが相当である。

二  請求原因2の(二)(株券不発行)及び抗弁1(株券発行)について

1  原告は、本件株式譲渡当時被告播備高原開発は株券を発行していなかつた旨主張し(請求原因2の(二))、被告らは、被告播備高原開発が本件株券の発行前である平成四年三月三〇日本件株式にかかる株券を発行した旨主張する(抗弁1)。

右各主張は、同一の社会的事実の存在と不存在を主張するものであるから、併せて検討することとする。なお、原告は本件株式譲渡の時点までの株券発行の不存在を主張するものであるが、すべての時点・態様における株券発行の不存在を立証することは不可能を強いるものであるから、被告らが主張する特定の時点・態様における株券発行の不存在の証明がされれば本件株式発行後本件株式譲渡の時点までの株券発行の不存在が証明されたものと解するべきである。

2  被告らは、株券発行の事実の証拠として、丙九の一ないし二〇を援用し、被告播備高原開発代表者新宮千早(以下「新宮」という。)本人尋問の結果中には右主張に沿う部分が存在する。

新宮本人によれば、丙九の一ないし二〇は被告播備高原開発代表取締役舘の記名押印があるが、同じく被告播備高原開発の代表取締役である新宮が舘名義で作成したことが認められる。なお、証人舘によれば舘は丙九の一ないし二〇の作成には関与しておらず、新宮が舘名義を使用することにつき承諾していないことが認められるものの、被告播備高原開発の代表取締役である新宮は株券を発行する権限を有していたものというべきであるから、丙九の一ないし二〇は権限のある者により真正に作成されたものと認められる。

ところで、丙九の一ないし二〇には株券発行日として平成四年三月三〇日との記載があり、新宮は本人尋問において、被告播備高原開発の七五パーセントの株主であつた被告東通スポーツの五六パーセントの株主である株式会社東通(以下「東通」という。)が同年二月二七日更生手続開始の申立てをし、被告東通スポーツの従前の経営陣が経営権を失う虞が生じたことから被告東通スポーツの保有する被告播備高原開発の株式を被告東通スポーツの各株主らが同会社から譲渡を受けて直接支配することを目的として株券を発行することが必要となつたこと、被告播備高原開発の経営権の争いから神戸地方裁判所に係属していた株主総会決議不存在確認請求事件につき同年三月二五日谷口美雄外四名を取締役に、橋本護を監査役に選任する旨の平成三年一一月八日の株主総会決議の不存在等を確認する旨の判決が言い渡され、従前の取締役及び代表取締役である舘及び新宮らの地位が復活したことから、平成四年三月三〇日株券を発行した旨供述する。

しかしながら、《証拠略》によれば、新宮は右株券発行当時被告播備高原開発の他の役員ばかりでなく、株券の発行先である被告東通スポーツ並びに株式(株券)譲渡を予定していた被告東通スポーツの株主である株式会社日本ダンロップ(以下「日本ダンロップ」という。)、株式会社ペップ(以下「ペップ」という。)外と相談することもなく、右株主らも右株券発行につき当時知らなかつたこと、後記認定にかかる同年四月一九日の会合において舘から原告への本件株式の譲渡の提案がされたにもかかわらず、右株券発行について誰からも言及された形跡はないこと、現実に右株券が日本ダンロップ外の被告東通スポーツの株主に交付されたのは同年八月ころであり被告ら主張の株券発行日から約五か月の間隔があることが認められ、さらに丙九の一ないし二〇を見ると市販の株券用紙を用いて作成されたことが明らかであり、新宮は独自に株券用紙を印刷する時間的余裕のないままに急いで右株券を作成したことが推認できる。

以上の事実を勘案すると、同年三月三〇日株券を発行したとすると当時右株券の発行に重要な利害関係を有する被告東通スポーツの株主らがこれを知らず、原告への株式譲渡が問題となつている際に既に株券が発行されていることが全く話題に上らないというのは不自然であり、新宮は同年六月になつて前記一の3の認定のとおり舘が本件株券を発行し原告に交付したことを知り慌てて前記株券を作成したことを窺わせる事情が存するから、新宮本人尋問の結果中前記主張に沿う部分はこれを信用することができず、丙九の一ないし二〇の株券発行日の前記記載があるからといつて、新宮が同年三月三〇日右株券を発行したことを認めるには足りない。

3  以上の検討の結果を総合すれば、新宮が右同日に右株券を発行してはいないことを推認することができ、したがつて、被告播備高原開発は本件株式譲渡当時株券を発行していなかつたことが認められる。

三  抗弁2(商法二六〇条二項一号違反)について

《証拠略》によれば、被告東通スポーツは青木功ゴルフクラブの経営・管理等を目的とする会社であり、青木功ゴルフクラブは被告播備高原開発が経営するものであり、そのため被告播備高原開発の発行済株式総数六万四〇〇〇株のうち七五パーセントに当たる四万八〇〇〇株を保有していたこと、被告東通スポーツは本件株式譲渡にかかる二万株を原告に譲渡すればその保有株数は二万八〇〇〇株となり被告播備高原開発の発行済株式総数の半数を割ることとなり支配権を失う虞があることが認められ、右事実によれば本件株式譲渡は被告東通スポーツにとつて商法二六〇条一項一号所定の「重要ナル財産ノ処分」に該当し、取締役会の決議を経ることが必要な事項であるというべきである。

ところで、株式会社の代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々の取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、相手方において右決議を経ていないことを知りまたは知ることができたときでないかぎり、有効である(最高裁判所昭和四〇年九月二二日第三小法廷判決・民集第一九巻第六号一六五六頁参照)。

そこで、本件株式譲渡が被告東通スポーツ取締役会決議を経ないでされたものか否か、取締役会決議を経ていないことにつき原告がこれを知つていたか否かについて検討する。

《証拠略》によれば次の事実を認めることができる。

(一)  被告播備高原開発は青木功ゴルフクラブの経営を主な業務とする会社であり、被告東通スポーツは青木功ゴルフクラブを経営するため設立され、昭和六二年四月一〇日被告播備高原開発が被告東通スポーツに対し第三者割当による四万八〇〇〇株の新株発行を行い、被告東通スポーツが被告播備高原開発の発行済株式総数の七五パーセントを保有する支配株主となり、残り二五パーセントは社団法人国民住宅建設協会(以下「国住協」という。)が保有している。被告播備高原開発の役員構成は、国住協の代表理事吉田豊(以下「吉田」という。)が代表取締役会長、舘が代表取締役社長、新宮が代表取締役副社長となつていた。

(二)  被告東通スポーツは、東通が五六パーセントの株式を保有するほか、新宮が経営するペップが二二パーセント、日本ダンロップが一〇パーセント、有限会社青木功ゴルフ企画(以下「青木企画」という。)が一〇パーセント、株式会社ノザワ(以下「ノザワ」という。)が二パーセントの株式を各保有しており、本件株式譲渡当時、各株主の利益を代表して次のとおり括弧内に記載した派遣元から役員が派遣されていた。

代表取締役社長 舘(東通)

同副社長 新宮(ペップ)

常務取締役 氏家邦光(舘の友人、以下「氏家」という。)

取締役 青木宏子(青木企画、以下「青木」という。)

取締役 大西久光(日本ダンロップ、以下「大西」という。)

監査役 野沢太一郎(ノザワ)

(三)  東通は、平成四年二月二七日東京地方裁判所に更生手続開始の申立てを行い、同日保全処分が出されて保全管理人羽田忠義が選任された。他方、被告播備高原開発も青木功ゴルフクラブの第二工区の開発許可が下りなかつたことにより借入金の返済が大幅に遅延し、平成三年一一月ころ株式会社芙蓉(以下「芙蓉」という。)の介入を受け、株主総会決議不存在のまま芙蓉の意を受けた者を取締役に選任する旨の登記がされるなどの事態に至り、被告播備高原開発の社内は混乱を極めていたが、平成四年二月ころ芙蓉から登録代表者印が返還され、同年四月二日神戸地方裁判所の右役員選任にかかる株主総会決議不存在確認の判決が確定したことにより、同月二二日右登記の記載も抹消・更正された。

(四)  舘は、東通の代表取締役副社長でもあり、その関連会社の代表取締役でもあつたが、その一つである株式会社東通スタジオの代表取締役として原告の関連会社である日ゴファイナンス株式会社(代表取締役北村守)から五〇億円の融資を受け、舘はこれに個人保証をしていた。

(五)  被告東通スポーツは、平成四年二月一二日開催の取締役会において、被告播備高原開発の経営権が被告東通スポーツに戻つた場合、当面の担当取締役として新宮を推薦し、被告播備高原開発の代表取締役に新宮を選任することを承認した。

(六)  東通保全管理人羽田忠義は被告東通スポーツ代表取締役舘に対し、平成四年四月一〇日付書面により、被告東通スポーツの株主として現取締役の解任と新取締役の選任を目的とする臨時株主総会を開催するよう商法二三七条一項に基づき請求した。

(七)  舘は、親会社の東通が更生手続開始申立てをし、また経営難となつた被告播備高原開発に介入してきた芙蓉の影響力を排除し、同被告の建て直しを図るには原告の支援を受けることが必要である等との判断に立ち、被告東通スポーツの保有する被告播備高原開発株式のうち二万株を原告に譲渡することを企図し、平成四年四月一九日(日曜日)、ペップの事務所に被告東通スポーツ代表取締役兼被告播備高原開発代表取締役である新宮、被告東通スポーツ取締役の大西、氏家、被告播備高原開発の代表取締役の吉田を集め、被告播備高原開発の再建問題について協議した。その際、原告代表取締役の北村も同席していた。なお、同じく被告東通スポーツの取締役である青木は呼ばれていない。右会合において、舘ないし北村から、被告播備高原開発の再建及び現経営陣の経営権確保のため原告の支援を受けることが必要であり、そのために被告播備高原開発の株式二万株を原告に譲渡する旨の提案があつた。これに対し、明確な反対意見は表明されなかつたが、積極的な賛成意見もなく、大西は被告東通スポーツにとつて重要な問題であるから正式な取締役会の決議が必要であること、親会社である日本ダンロップや住友ゴム株式会社の了解が必要であることを理由として回答を留保し、新宮もペップの意見を聞くとして意見を留保したため、その日は明確な結論が出ないまま正式に多数決をとることもなく終了した。

(八)  舘は北村との間で同月二〇日本件株式譲渡を行つたが、その際、「被告東通スポーツは本件株式譲渡につき取締役会の承認を得ることとする」旨の合意をした。

(九)  氏家は、舘の指示を受けて、同月一九日から二〇日にかけて、同月二一日付取締役会議事録の原案を作成したが、その内容は同日の取締役会において本件株式譲渡につき承認したとするものであつた。氏家は、これを同日に開催された取締役会のシナリオとして作成したものであるが、当日は舘及び氏家以外の取締役が集まらなかつたため、取締役会として成立せず、その後同月二七日に舘に右原稿を送り、さらに同年五月二〇日にこれを浄書したものに署名押印して舘に送付した。舘は、これに署名押印のうえ新宮に送り署名押印を求めたが、新宮はこれを拒絶し、大西の署名押印もないまま保管されている。

(一〇)  被告東通スポーツにおいて、前記(七)の会合以外に本件株式譲渡について被告東通スポーツの取締役が集まつて協議がされたり取締役会が開かれたことはない。

以上の事実によれば、平成四年四月一九日に被告東通スポーツの取締役五名のうち四名がペップに集合して舘から本件株式譲渡について提案がされ、これについて協議されたことは認められるが、右会合には、被告東通スポーツの取締役である青木が呼ばれていないこと、被告東通スポーツの取締役ではない吉田及び北村も加わつていること、日曜日に非公式に行われた会合との色彩が強く、出席者も右会合が正式な取締役会であるとの認識を有していなかつたこと、そのため、大西は正式な取締役会の開催を求め、北村も被告東通スポーツの正式な取締役会決議を要求し、舘も右要求に応じて本件株式譲渡契約において取締役会決議を得る旨合意していること、舘以外の取締役にとつて原告の支援を求めることは舘の債権者である原告の介入を招来する虞があり現経営陣及びその派遣元の経営権を確保するという意味からも疑問があつたこと、本件株式譲渡について取締役会議事録と題する書面が作成されこれには本件株式譲渡について承認された旨の記載があるが、その原稿を作成した氏家は同月二一日に正式に開催される予定の取締役会のシナリオとして作成したとの認識を有しており、右書面に記載された取締役会は同月二一日に開催されたこととされており同月一九日に取締役会が開催されたとの記載はないこと、右書面につき舘及び大西は出席取締役としての署名押印はしていないことなどの事実を勘案すると、同月一九日の会合は被告播備高原開発の再建及び経営権の確保について関係者が集まつて事実上協議したにとどまるのであり、被告東通スポーツの取締役会であると評価することは到底できず、そのうえ、右会合において大西及び新宮は結論を留保しており結局全会一致あるいは多数決による結論を出すには至つていないことが認められる。《証拠判断略》

したがつて、同月一九日に被告東通スポーツの取締役会が開催されて本件株式譲渡につき取締役会決議がされたということはできず、同日の会合以外に被告東通スポーツの取締役が集まつて本件株式譲渡について協議されたことはないから、本件株式譲渡につき取締役会の決議を経ていないものというべきである。

また、前記認定事実によれば、北村は同月一九日の会合に出席しており、右会合が被告東通スポーツの取締役会とはいえないこと及び右会合において結論が出ていないことについて認識していたものというべきである。

したがつて、北村は、その翌日の本件株式譲渡の時点において被告東通スポーツの取締役会決議を経ていないことを知つていたものというべきである。仮に北村が本件株式譲渡後に取締役会決議がされるものと信じていたとしても、現実に取締役会決議により事後的にでも追認されれば右瑕疵が治癒されることはあるが、事後的に取締役会決議がされると信じていたというだけでは本件株式譲渡が有効なものとなるということはできない。

四  結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 島川 勝 裁判官 根本 渉)

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